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あんよ
 


人ごみのデパートで
地下鉄のプロムナードで
買い物のおともに疲れた
こどもたち。

小さなお手々を
ひっぱって
履き慣れないハイヒールに
いらいらしているお母さん。

お父さんだって疲れています。
大人が疲れるくらいなら
こどもはもっともっと
疲れているのです。

歩き始めて間もないような
小さな小さなあんよ。
私はいつもかけよって
抱いてあげたくなるのです。

 

 

小さいお兄ちゃん


やっと二才になったくらいの
小さいお兄ちゃん。
赤ちゃんは
ママのおせなにおんぶ
一生懸命あんよして
ママのお買い物のおとも。

お手々に持ったキャラメルを
溶けてしまうほど握る締めて。
まだ抱っこしたいでしょうに
おんぶだってしたいのに。
早くお兄ちゃんになったばかりに
若いママさん考えてあげてネ。

 

 

年輪

 


まだ 私が若かったとき
最初の子は
本にあるようにしつけようと
オシッコこぼすとおしりをペチン。
何かといっては怒ったものだ。


二番目からは親もなれて
三人目ともなると
「そんなに怒ってもだめ
子供ってそういうものなの」
泣いたってこぼしたって怒れなくなる


「もう四人でおしまい」
こう思う年頃になると
辛抱づよく
親の経験と愛情を
かたむけつくして心をくばる。


人生とは
こうしたものか。
長男の巣立つ日近く
幼な娘とみくらべながら
この頃しみじみ思うこと。

(S.37.8.9)

 

 

息子

 


見上げるように大きくなった息子
両親の背はとうに越して
ときどき鴨居にぶっつけて
頭をかかえている。


幼かった日から十六年。
自分の意志でものごとを判断し
処理して行こうとする。
けれど頭だけ先へ行っても
そんなに都合よくはいかないもの。


いらだたしい気持ちのはけぐちを
母親にぶっつけたり
弟にぶっつけたり。
けれど二才の妹には
何ともいえない優しさを示す。


分かってはいるのだけれど
時々叫びたくなる年ごろ
少年から青年への道を
一生懸命歩いている我が子。
この嵐の時期を
そっとささえてあげましょう。

 

 

かわいこちゃん

 


かわいこちゃん
   かわいこちゃん
バラいろホッペの
   おカッパさん
ままごとあそびのかあさまよ


かわいこちゃん
   かわいこちゃん
はなびらおくちの
   おカッパさん
おにんぎょあそびのかあさまよ


かわいこちゃん
   かわいこちゃん
パッチリくろい
   おままちゃん
あそびつかれておひるねよ


風さんそよそよ吹いてきて
小さなかあさま ねんころり

(S.38.4.21)

 

 

まんみっつ

 


きょうは わたしのたんじょうび
うまれて ちょうど まんみっつ

あか、あお、みどりのローソクを
ケーキにたてて ふきました


人さしゆびと おやゆびさん
まるめて のこりは まんみっつ


みんなに おしえてあげましょう
きょうから わたしは まんみっつ

 

 

娘と仕事と

 


夜中におせきがひどくて
まんじりともせず
楽しみにしていた幼稚園の
クリスマスの会にも行かれず
明日からは冬休み
ずいぶん気をつけていたのに
とうとう風邪をひかせてしまった。
ごめんなさいね春美ちゃん。


今年の風邪はタチが悪いという
昨日はインタビューの約束なので
留守の間にお熱が出ては、と
アイロタイシンを六時間おきに
飲ませて、と母に頼んで出かけた。
今日病院に連れて行ったら
「気管のまわりに炎症を
起こしているだけ。
それほど心配いりません」て
今夜の寝息は安らかだ。


暮れは何かと落ち着かず
小さいものにしわよせがゆく
「ママお仕事よ」といえば、
あきらめて。
ずっと産まれた時から
そうして来てしまった。


「ママだいちゅき
てんじょうより、おそらより
うちゅうよりだいちゅき」
おふとんに入ると片言で
よくそう言った子も
かぞえで七才のお祝いをすませた。


三越からカラーのお写真がとどいた。
この時も私がお仕事で
ついて行ってやれなかったのに
もう少女らしい
はじらいさえ感じられる。


この間、私が奥歯をぬいて
冷やしていたら
「ねこんだらおこしてね」
と私の横にもぐって寝た。
いじらしいおカッパさんに
頬ずりして涙があふれた。


家族の誕生日を
だれよりも喜んで
何日も前から楽しみにしている。
来年のカレンダーにも
全部赤まるをつけて
お兄ちゃま二十一才などと
書きこんでしまった。


仕事はむしょうに面白い
どんなにでも
打ちこんでしまいたくなる
自分がこわいくらい。
けれど、娘のためにも
今はその時期ではない、と
家にいる時を大切に大切にしている。

(S41.12.22)

 

 

デッサン

 


「これ一まいちょうだいね」
パパの色紙をいただいて
春美ちゃんが絵を描きました。
「とおいお家は小さく
かけばいいの?」
「チューリップさんにとまってるの
七ほしてんとうむしなの」
二軒のお家のエントツからは
けむりがモクモク点まで届いている。
大きいのや小さい雲が
五つもポカポカ浮かんで
ちょうちょさんが二匹
羽を一杯ひろげている。

お日さまはピカピカかがやいて
お庭に咲いた2本のチューリップ。
くきに一ピキづつ
てんとうむしがしがみついて
背中にちゃんと
七つの星がついている。
ママが原稿書いてるおこたで
六才の女の子のマジックのデッサン。
ママのお胸はあたたかいもので
いっぱいになりました。

(S41.12.22)

 

 

四ツ身

 


暮れの一日いっしょうけんめい
四ツ身を縫いました。
一人娘が
着物の似合う頃になったのです。


デパートでパパとわたしで
目を細めながら選んだ
若草色と赤と黄の
それはきれいな反物です。


見事な色彩の
画を描く子に
とっても似合いそうで
仕立てあがりが嬉しくて。


忘れてしまった
裁ちかたを
わたしの母に教わりながら
着物と羽織を縫いました。


この子がこれからだんだんと
蕾のふくらむ時おりに
祈りをこめて縫うでしょう
美しい花咲かせてと。――

(S.41.12.27)

 

 

一年生

 


「クリスマスには
赤いランドセルと
上ばき入れとズックを
サンタクロースさんに
とどけてほしいな。」
一年生になるのが待ち遠しい
女の子がいいました。


「とってもいい子だから
みんな持って来てくれるわよ。」
産まれた時から一年生になる日を
待っていたママがいいました。


「でもね、まくらもとに
おいてくれるのは
パパとママなんでしょう?」
昨年まで
お家のエントツが小さいのを
心配していたのに
今年はこんなことを
いうようになりました。


「みんなの心の中に
サンタクロースさんがいるのよ。
パパとママとサンタさんと相談して
一番いものを贈るのよ。」
女の子は安心して
「おやすみ。」をいいました。

(S41.12.22)

 

 

エリーゼのために

 


もう十年も前の春
臨月のわたしは
エリーゼのためにの
レッスンをおわって
女の子を産みました。


八重垣姫の
お人形をつくりながら
こんな気品のある
お姫様のような
女の子がほしい。


近所のおばあちゃまが
おっしゃいました。
「きっと女の子ですよ
お顔がやさしいから
お人形をつくる人は
女の子にめぐまれますよ。」って


その方も亡くなり
わたしの娘は
かろやかなタッチで
エリーゼのためにを
弾いてくれます
満九才の春が近づいています。

 

 

 

 


昨年の夏
みじかくカットした髪を
今はいっしょうけんめい
のばしています。
「ながくなったら
三つあみにしていいでしょう
いろいろの髪ゆってね
おリボンもつけて。」
少女の瞳は
あふれるような
夢がいっぱい。

 

 

兄妹

 


テレビの音がやんだ
シクシクと
泣き声がする
「どうしたの?」
声をかけると
さっきまであった
宿題の紙がない、という


いつもならすぐきてくれる
ママが風邪で寝ている
受験勉強していた
お兄ちゃんがきて
さがしてくれた
「これから気をつけなさいよ。」
やさしく注意していた


「よかったでしょう。」と言ったら
クスリと笑って
「ひと月に一度か二度
お兄ちゃんっていいなあって
思うことがあるの
ワンちゃんのおさんぽに
一緒に行ったり
大事なレコード聞かせてくれる時。」

(S.44.1.29)

 

 

いたわり

 


小田急のロマンスカーで
新宿へ出るのが楽しみな夫に
「藤沢まで送ってよ。」
そう言われたのに
興にのって夜半まで
書類をいじっていたので
運転する気になれない


ハイヤーを呼んで
夫は出かけた
送ってあげればよかったな
たった十五分でいけるのに
でも過労運転はいけないわ

うしろ姿が
一日心にひっかかっていた
空気や太陽のように
なにげなく
大樹に寄りかかるように安心して
今日まで、これたのだから
これからはいたわってあげなければ
親のそばよりも長く
二十五年も暮らしてきて
こんな想いがしきりにしている
このごろです。――

(S44.2.18)

 

 

人間というもの

 


辻堂をすぎると
藤沢までの車窓から
右手に電気メーカーの
大工場がみえる
時代の先端をゆく
メカニズムの殿堂


ふとみると
ひろびろとした敷地の横に
こんもりと木立があって
お稲荷さんらしい
赤い鳥居がありました


めくるめく電子の時代に
いじらしい
人間のこころが
のぞいていました

(S44.2.26)

 

 

老いの孤独

 


片うでをもぎとられし思いよと
 父亡きあとを母は言いつつ


着ぶくれし母の背中のわびしさよ
 父亡き冬の寒さいといて


子や孫に囲まれていても拭き抜ける
 老いの孤独はいやすすべなし


年老いて残りし妻のかなしさは
 かくまで深くつらいものとは


五十余年、七人の子を育てあげ
 先立ちし父恋うる母なり


共にありし時は何気なかりしに
 一つ一つが想い出小箱


老いし母 如何になぐさめいたわらん
 ひとときだけの喜びなりと

(S.41.12.23)

 

 

優しい子

 


風邪で寝ていると
「ママ頭いたい?」
「いたいわよ。」
「ぬれたタオル持ってくる?」
「いらない。」
「じゃ、サロメチールでも塗る?
少しは楽になるから。」


アイロタイシンを呑む時間を
数えて
「次は何時よ。」と
教えてくれる
娘の思いやりが
私に頭痛を忘れさせる


学校でも
だれかが気分が悪くなると
さっと立って
「先生、保健室へ
つれてゆきましょうか?」
「いろんなお手伝いを
よくしてくれて助かります
二年生にしてはお姉さんです。」って
先生がおっしゃる

 

 

春の嵐

 


雨をふくんで
容赦なく吹きつける風に
髪をなびかせ立っている
木々のざわめき
枯れ草の葉ずれの中で
独り立っている


このきびしさ
この哀しさ
そして私の胸は
期待にふるえ
涙さえうかべて
春の嵐に身をゆだねる


われとわが心を
もてあまし
模索しつづけた若い日
人の世にめざめゆく
悩みは深く
求めつづけた日日


年は経ち
やがて私は知った
枯れ草の下に
もちぐさや名も知れぬ青草が
春を用意していることを
嵐の季節のあとにこそ
春は確実に
わたしのものとなることを

(S.44.2.26)

 

 

 

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