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このごろ

 


まだ秋は始まったばかりなのに
晩秋ともいえそうな
わびしさが ただよう
夏がいろどったサルビアは色あせて
こぼれ散る。――

おしろい花が咲きみだれ
夾竹桃はあざやかに紅く
柿の実は まだ青い
私の好きな コスモスや紫苑が
だまって 秋を告げている

何がなし 涙があふれて
人生の 哀歓に
感じやすくなっている。――

(1977.9.30)

 

 

別離


ルビーのような
ざくろの実がはちきれました
ユーカリの木が
嵐の季節に身をもんでいます
夾竹桃のあざやかな紅が
ひときわ眼にしみます
命の限り燃えるようです
こんなに美しいと
感じたことはありません。

紫苑もコスモスも
あまりの暑さにたくさん枯れました
でも、ようやく花を開くでしょう
今年は片手にあまる
親しい人々と別れました
八十六才の母も
恋しがっていた
父のところへ逝きました
人生のあまりの深い想いに
涙ぐんでいる私です。――

(1978.9.13)

 

 

いたわり

 


半月ぶりに帰った茅ケ崎、
柿の実がたわわに実り
小鳥たちが喜んでついばんでいる。
寒椿が燃えるように咲いている。
夏の初めに剪定したせいか、
澄んだえんじ色の
大きな花びらが美しい。

雨が降っているので
帰京をのばそうと電話をしたら、
「寒いから休んだ方がいいわよ」と娘の声
「あったかくして寝てた方がいいよ」
と息子の声
みんなのいたわりが身にしみて
一人で泣き笑いする母親です。

(1979.11)

 

 

絹につつまれて

 


希望校をめざしてもう一年
娘は予備校通いを始めた。
心の葛藤もあったろうに
無事に夏が過ぎ、秋が来て、冬になった。


学生街にある小さな喫茶店、
若者たちが集まり
時におごってくれるママさんがいる。
詩が好きだというママさんは
大学生の一人息子がいて
信じられないほど若々しいという。


娘があげた「幾歳月」を読んで
「絹につつまれて育ったような娘だね」
と夫婦で話しあったという。
そんなことを話しながら
ふっと涙ぐむ娘です。


母親から少し離れてみて
親の愛情を素直に
感じているようです。

(1979.11)

 

 

お振袖

 


晩秋の或る日
デパートで用意してくれた飛行機に乗って
加賀友禅を見に行きました。
成人式に着る日のために
心ゆくまでさがしてこようと
夫婦そろって出かけました。


「お振袖は二十才のお祝いと
お友達の結婚式に二、三回着るだけね」と
私が言ったら、
「お色直しにも着るでしょ
だからいいものをたのむわね」と
娘がいいました。


思いがけない言葉にハッとしました。
いつまでも手元におきたい親と、
結婚の時を考えている娘心と。――
「もうそんな時が近づいて来たのね」
あらためて思い知らされました。

(1979.11)

 

 

幸わせに

 


昔の人は若い時の苦労は
買ってでもするがよいと言った。


たしかに人はつらい思いの中で
思いやりの心も育ち
ありがたみも知るだろう


でもわたしは思う。
出来るなら苦労なんかさせたくない
この世に生まれてきて
みんな幸わせになってほしい
それでなくても弱い人間
涙の多い人生なんだから。

(1980.1)

 

 

大島つむぎ

 


大島つむぎを見にゆきました。
会場一杯に用意された中から
番頭さんが取り出してくれた
紅い椿の花模様。
シンプルで初々しい柄が紺地に浮き立ち
何とも言えず心をうちました。


「これがいい、これにするわ」
一瞬で決めました。
十九才の娘にはまだ早く
何年先に着るか分からないけれど、
いつか袖を通す日が来るでしょう。
母の想いをこめて
一枚一枚選んでおいてやりたいと思います。

(1979.11)

 

 

能登にて

 


ニセアカシアの枯葉が
黄色く大地を染めている。
山には初雪が降ったそうな――
行けども行けどもつづく砂浜は
夏の想い出も、人のざわめきも
みんな忘れたように
人影すら見えない。


寄せては返す波音は
すさまじく胸にせまる。
空は雨をまじえ、時に晴れ、時にくもり
変わりやすい北国の天候は
重く、暗く旅人の胸をゆさぶる。
ここは波荒い能登半島。
誰かの悲しみの歌声のような潮騒。
岩にくだけた波の花が飛び散る。
人生のきびしさを
全身で受け止めているような
ずっしりとした想いが
旅から帰ってもとけてゆかない。

(1979.11)

 

 

 

食事

 


受験生はどんなに不安にかられているだろうに
自分の身体が当てにならないから
何もしてあげられない悲しさが
いらだちとなって、ぶつかってしまう。


ごめんなさいね。
兄妹でいたわりあって
暮らしているのかと思いながら、
パパと二人分の食事の支度をしています。

(1980.1.7)

 

 

甘え(パパへ)

 


私のわがままも、
言いたい放題も、勝手きままも
黙って聞いてくれるから
なぐさめられるんでしょうね。


やりばのない不安や悲しさを
困ったように受け止めてくれるから
ほっとするんでしょうね。


でも聞いている人の心の痛みは
いっとき眼をつむって
甘えている私なんでしょうね。

(1980.1.7)

 

 

北国の街で


アカシヤの並木が
風にさわいで
季節の変わる音がします。
たった一人で
北国の街を歩いてきました。


ふと病気があったことを
忘れてしまうほど
晴れやかなのは
一人旅の気安さからでしょうか。


前夜さっぽろ東急の本社合併
記念パーティーに出席して
五年前初めて根をおろした若木が
店も人も見事に育っているのが
嬉しかったからでしょうか。


とうきびを焼く匂いが
公園広場に流れて
私もベンチにかけて
北国の味をほうばりました。

 

鳩がよってきて
パラパラまくと
おいしそうに食べます。
思い思いに憩う人びとは
やすらいで楽しそうでした。

(1978.9.13)

 

 

道すがら

 


過ぎた日々の輝きも
楽しさも 美しさも
みんな空しく感じる時がある。
身も心も弱った時
人間というものの何という悲しさ
何というあわれさ。


灯台の灯りを見失った舟人が
母親の姿を求める幼な子が
行きくれた旅人が
こんな心細さを感じるのではなかろうか。

山の奥から流れ出る水は
再び戻ることがないように
人の生命も 行く道も
先へ先へと歩むより仕方ない。


その流れの道すがら
めぐりあい、愛しあい
悩みながら喜びながら
ちっぽけな人間たちは
悠久の時の流れの中で
生まれ育ち消えてゆく。


人の一生なんて何と儚いものかと思う。
一つ一つの言葉や行ないを
心をこめて聞いているのは
年長者への思いやりであろうか。


そしてわが身をふりかえる。
一日一日を大切に生きようと
ひしと思う。――

(1980.1)

 

 

 

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